聞こえにくさを放っておかない|難聴は認知症の「変えられる最大のリスク」

補聴器をつけた高齢男性 認知・脳の健康

「テレビの音が大きいと言われる」「聞き返すことが増えた」——年齢のせいだから仕方ない、と思っていませんか。じつは聞こえにくさは、認知症の危険因子のなかで最も大きな「変えられるリスク」だと報告されています。この記事では、なぜ耳が脳とつながっているのか、そして今日からできることを整理します。

認知症リスクの40%は「変えられる」

2020年、医学誌ランセットの国際委員会が発表した報告があります。認知症のリスクのうち、およそ40%は生活習慣などで変えられるというものです。

残りの6割は年齢や遺伝など、どうにもならない部分。しかし4割はこちら側の問題だということです。そして、その変えられるリスクのなかでいちばん大きな割合を占めていたのが「難聴」でした。

喫煙よりも、運動不足よりも、大きい。——これは意外に知られていません。

なぜ聞こえにくさが、脳に影響するのか

① 脳に届く情報が、単純に減る

耳は、脳への大きな入り口のひとつです。聞こえにくくなると、脳に届く情報の量そのものが減ります。使われない部分の働きが落ちていくのは、筋肉と同じです。

② 「聞き取ること」に脳の力を使いすぎる

聞こえにくい状態で会話をすると、脳は聞き取りそのものに大きな労力を使います。「何を言われたか」を推測することで精いっぱいになり、内容を覚えたり考えたりする余力が残りません。

「人の話が頭に入らない」のは、記憶の問題ではなく聞こえの問題かもしれないのです。

③ 会話が減り、外出が減る

聞き返すのが気まずい。話がかみ合わず、疲れる。——そうして人の集まる場所を避けるようになります。

当ブログでくり返しお伝えしているとおり、社会参加の減少はフレイルや認知機能低下の大きな要因です。耳の問題は、そのまま暮らしの問題につながっていきます。

セルフチェック:こんなことはありませんか

  • テレビの音量が大きいと、家族に言われる
  • 聞き返すことが増えた(とくに「さ行」「か行」が聞き取りにくい)
  • 後ろから呼ばれても気づかないことがある
  • 大勢での会話や、騒がしい場所での聞き取りがつらい
  • 電話の声が聞き取りにくい
  • 会話がかみ合わず、あいまいにうなずいてしまう

2つ以上当てはまる方は、一度、耳鼻咽喉科で聴力検査を受けてみてください。加齢による難聴はゆっくり進むため、ご本人はなかなか気づけません。周りの方が先に気づくことのほうが多いのです。

今日からできる3つのこと

① まず、聴力検査を受ける

「補聴器を買いに行く」のではなく、まず検査です。聞こえにくさの原因が耳あかの詰まりや中耳炎であることもあり、その場合は治療で改善します。

加齢による難聴と診断された場合も、どの音域がどのくらい聞こえにくいかがわかることに意味があります。

② 補聴器は「早いほど慣れる」

補聴器は、眼鏡のようにかけてすぐ見える道具ではありません。久しぶりに入ってきた音に脳が慣れるまで、数週間から数か月かかります。

ですから、聞こえにくさが強くなってからより、早い段階のほうが慣れやすいのです。「まだ我慢できるから」と先延ばしにするほど、あとで苦労します。

購入の際は、補聴器相談医のいる耳鼻科や認定補聴器技能者のいる販売店で、調整を重ねながら選んでください。合わないまま引き出しにしまわれている補聴器は、とても多いのです。

③ 周りの人の話し方を変える

ご家族にもできることがあります。

  • 正面から、顔を見て話す……口の動きは大きな手がかりになります
  • 大声より、ゆっくり・区切って……大声は音がひずんで、かえって聞き取りにくくなります
  • テレビを消してから話しかける……背景の音があると聞き取りは格段に難しくなります
  • 別の言葉で言い換える……同じ言葉をくり返すより伝わります

耳の健康を守る生活習慣

耳の内側の細い血管は、全身の血流の影響を受けます。高血圧・糖尿病・喫煙は、難聴を進めやすいことが知られています。生活習慣病の管理は、耳のためでもあるのです。

また、大きな音を長時間聞かないこと。イヤホンの音量にも気をつけてください。一度傷んだ内耳の細胞は、元には戻りません。

まとめ

  • 認知症リスクの約40%は変えられる。そのなかで最大の要因が難聴
  • 聞こえにくさは、情報量・脳の負担・社会参加の3つを通じて脳に影響する
  • 加齢による難聴はゆっくり進むため、本人は気づきにくい
  • まず耳鼻科で聴力検査を。補聴器は早いほど慣れる
  • 周りの人の話し方を変えるだけでも、会話はぐんと楽になる

「年のせいだから」で終わらせないでください。 聞こえは、取り戻せる可能性のある力です。そして聞こえが戻れば、会話が戻り、外出が戻り、暮らしが戻ります。

※ご注意
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。補聴器の使用によって認知症が必ず予防できると確定したわけではなく、研究が続いている段階です。聞こえにくさを感じたら、自己判断せず耳鼻咽喉科を受診してください。急に片耳が聞こえなくなった場合は、早期の治療が必要な病気の可能性があります。すぐに受診してください。

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出典:Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission/日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会/厚生労働省 e-ヘルスネット

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