一度転んでから、外に出るのがこわくなった。——ご本人からも、ご家族からも、よく聞くお話です。ケガは治ったのに、以前のように動けない。これは気持ちの問題であると同時に、体の問題でもあります。この記事では、「また転ぶのが怖い」という気持ちが足を弱らせていく仕組みと、その悪循環のほどき方をお話しします。
体は治っても、心が戻らないことがある
転倒を経験した方の多くが、そのあと「また転ぶのではないか」という強い不安を抱えます。骨折などのケガがなかった場合でも起こります。
これは弱気になったということではありません。転んだ記憶は、体がきちんと危険を学習した結果です。ですから、まずご自身を責めないでください。問題は、その不安が「動かない」という行動に変わってしまうことにあります。
なぜ「怖さ」が足を弱らせるのか
動かない時間が、本当に転びやすい体をつくる
ここが、いちばんお伝えしたいところです。
怖いから動かない → 使わない筋肉が落ちる → バランスを取る力も落ちる → 本当に転びやすくなる → さらに怖くなる。——この繰り返しが起きます。
しかも筋力は、1週間じっとしているだけでおよそ10%落ちるといわれています。落ちるのは早く、戻すのはゆっくりです。怖さを避けて安静にしていることが、いちばん危険な選択になってしまうのです。
行ける場所が減り、会う人が減る
外出をひかえると、体力だけの問題では終わりません。会う人が減り、話す機会が減ります。人と話さなくなれば、口の力も、頭の働きも落ちていきます。
「外出が週に1回を下回る」状態は閉じこもりと呼ばれ、フレイル(心身の虚弱)の入口として知られています。一度の転倒が、暮らし全体を小さくしてしまうことがあるのです。
セルフチェック:あなたの「怖さ」はどのくらい?
次のようなことはありませんか。
- 買い物や散歩に出る回数が、転ぶ前より減った
- 雨の日や暗くなってからは、外に出ないようにしている
- 誰かが一緒でないと出かけたくない
- 家の中でも、壁や家具を伝って歩くことが増えた
- 「危ないから」と、自分から予定を断ることがある
ひとつでも当てはまれば、すでに悪循環が始まっているサインかもしれません。ただし、これは戻せます。気づけたことのほうが、ずっと大きいのです。
怖さをほどく3つのステップ
① 「がんばる練習」ではなく「支えのある練習」から
怖い気持ちのまま、いきなり外を歩く必要はありません。まずは安全が確保された場所で、体を動かす感覚を取り戻します。
おすすめは、椅子の背や机に手を置いて行う運動です。かかと上げ、その場での足踏み、片足立ち。手を添えていれば転びません。「支えがあればできる」という経験が、怖さをやわらげます。
慣れてきたら、手を添える力を少しずつ弱めていく。指1本になり、やがて手を離せるようになります。この段階を踏むことが大切です。
② 目的地を、小さくする
「散歩に行きましょう」ではハードルが高すぎます。「郵便ポストまで」「隣の角まで」——それで十分です。
行き先が具体的なほど、人は足が出ます。そして達成できた経験が積み重なると、怖さは自然に小さくなります。天気のいい昼間、人通りのある道から始めてください。
③ 家の中の「つまずきポイント」を、ひとつ減らす
じつは転倒の多くは家の中で起きています。環境をひとつ変えるだけで、安心感がまったく違います。
- 玄関やトイレまでの通り道にある新聞・コード・小さなマットをなくす
- 夜間の通り道に足元のセンサーライトを置く
- スリッパをやめて、かかとを包む室内履きかすべり止め付きの靴下にする
「気をつける」より、気をつけなくてよい環境をつくるほうが確実です。
ご家族の方へ:「危ないから座ってて」が奪うもの
心配のあまり、つい「危ないから座っていて」と言ってしまう。よくわかります。けれども、その一言が動く機会を奪い、結果として転びやすい体をつくってしまうことがあります。
かけていただきたいのは、「やめておこう」ではなく「一緒に行こう」です。見守りながら動いてもらう。それがいちばん安全で、いちばん力を残せます。
そして、できたことを言葉にしてください。「今日は角まで歩けたね」。自信は、成功体験からしか戻ってきません。
まとめ
- 転んだあとの怖さは、自然な反応。責める必要はない
- ただし「動かない」に変わると、本当に転びやすい体をつくる
- 支えのある場所での運動から、少しずつ手を離していく
- 目的地は小さく。達成の積み重ねが怖さをほどく
- 家の中のつまずきポイントを、ひとつ減らす
怖さは、なくすものではなく、小さくしていくものです。 今日、玄関の外まで出られたなら、それは十分な一歩です。
※ご注意
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。運動は必ず椅子や壁など支えのある場所で行ってください。めまい・ふらつきが続く場合や、転倒をくり返す場合は、別の病気が隠れていることがあります。医療機関にご相談ください。
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