体操を続けているのに転んでしまう。——現場にいると、そういう方にしばしばお会いします。なぜでしょうか。答えはひとつです。転ぶ原因は、足だけではないから。この記事では、転倒を防ぐために本当に効くことを5つに絞ってご紹介します。そのうち運動は、ひとつだけです。
極意1 運動なら、片足立ちだけ
なぜ片足立ちを選ぶのか
当ブログでは、かかと上げ、スクワット、ストレッチと、いろいろな運動をご紹介してきました。全部できればすばらしい。でも正直なところ、全部続けられる方は多くありません。
そこで、ひとつだけ選びます。開眼片足立ちです。理由は3つあります。
- いちばん効くから……転倒予防の研究をまとめた報告では、バランスの運動が転倒をおよそ2割減らすとされています。筋トレ単独よりも効果的です
- 骨にも効くから……片足で立つと、その一本の足に全体重がかかります。骨は負荷がかかると強くなります。あとでお話しする「折れない体」に直結します
- 自分の状態が分かるから……20秒立てるかどうかが、そのままセルフチェックになります
やり方
目を開けたまま、床から数センチ足を浮かせます。高く上げる必要はありません。左右それぞれ1分、1日3回。これだけです。
いちばん大事なことをお伝えします。必ず、机や壁に手が届く場所で行ってください。つかまって構いません。 つかまりながらでも効果はあります。
セルフチェック
目を開けて、片足で20秒立てますか。立てない方は、転倒に注意が必要な段階です。ただし、これは鍛えれば戻せるもの。気づけたことのほうが、ずっと大きいのです。
運動の話は、ここまでです。 ここからの4つは運動ではありません。でも、これを知らないと防げません。
極意2 飲んでいる薬を、見直す
ふらつきの原因が、薬のことがある
「足が弱ったからふらつく」と思っていたら、じつは薬だった。——珍しい話ではありません。
厚生労働省の指針でも、薬が5〜6種類を超えると副作用が起きやすくなるとされています。どれも必要があって飲んでいるお薬ですが、長い年月のうちに気づけば何種類にもなっていることがあります。
とくに注意したいのが次のものです。
- 睡眠薬・安定剤……筋肉の緊張をゆるめる働きがあり、夜中にトイレへ立ったときにふらつきます。朝まで効きが残ることもあります
- 血圧の薬……効きすぎると、立ち上がったときに立ちくらみが出ます
- そのほか……頻尿の薬、アレルギーの薬、痛み止めなども、ふらつきに関わることがあります
絶対に、自分の判断でやめないでください
ここがいちばん大事です。血圧の薬を勝手にやめれば脳卒中の危険がありますし、睡眠薬も急にやめると眠れなくなります。
やっていただきたいのは、次の受診のときに、お薬手帳を持って、こう伝えることです。
「最近ふらつきます。減らせる薬はありますか」
この一言で構いません。医師や薬剤師は、そう言われて初めて見直しを検討できます。言わなければ、伝わらないのです。
極意3 足元が見えるメガネにする
遠近両用メガネは便利です。ただし構造上、レンズの下のほうが「近く用」になっています。つまり、足元を見ようと下を向いたとき、ピントが合っていないのです。
とくに危ないのが階段と段差。段の縁がぼやけて見え、そこで踏み外します。2010年に医学誌BMJで報告された研究では、外を歩くときだけ「遠くだけ見えるメガネ」に替えた方は転倒が減ったという結果が出ています。
できることは3つです。
- 外出用に、遠くだけ見えるメガネをもう1本……これがいちばん確実です
- 階段では、あごを引いて視線だけ下へ……顔ごと下を向くと近く用の部分を通ってしまいます。顔は起こしたまま、目線で見てください
- 年に1回、目の検査を……白内障は自分では気づきにくいもの。明るさやコントラストの見え方が落ちると、段差が見えなくなります
極意4 危ないのは、平らな床
人は、大きな段差では転びません
意外に思われるかもしれませんが、大きな段差では転びません。目に見えるからです。ちゃんと足を上げますし、手すりを探します。
転ぶのは、何もないように見える平らな床です。電気のコード、読みかけの新聞、薄いマットの端、こたつ布団のすそ。どれも「段差」とは思っていないものばかりです。
慣れた場所ほど、危ない
そしてもうひとつ。転倒がいちばん多く起きるのは、住み慣れたご自宅の中です。理由ははっきりしています。慣れた場所では、足元を確認しないから。旅行先の旅館では、みなさん慎重に歩きますよね。その注意を、家の中ではしていないのです。
家の中の、危ない5か所
- 玄関……段差と、靴の脱ぎ履きでバランスを崩す
- 廊下……コードと薄いマット
- 居間……新聞とこたつ布団
- 寝室……夜の暗さ。スリッパもやめましょう
- 浴室……ぬれた床と、浴槽をまたぐ動作
全部やらなくて構いません。今夜、ひとつだけ片づけてください。
極意5 転んでも、折れない体に
転倒は、完全には防げません
正直に申し上げます。どれだけ気をつけても、転倒をゼロにはできません。
だから発想を変えます。転んでも、骨が折れなければいいのです。
高齢期に怖いのは転倒そのものではなく、そのあとの骨折です。大腿骨を折れば手術と長期の入院になり、そこから寝たきりになる方が少なくありません。転倒予防の本当の目的は、骨折を防ぐことなのです。
骨を守る3つ
- たんぱく質とビタミンD……骨はカルシウムだけでできているわけではありません。土台はたんぱく質です。ビタミンDはカルシウムの吸収を助けます
- 日光を1日15分……ビタミンDは日光を浴びると皮膚でつくられます。夏なら日陰で、冬なら手のひらを日に当てるだけでも構いません
- 骨密度の検査を一度……骨がもろくなっても、痛くもかゆくもありません。検査でしか分からないのです
骨粗鬆症と分かれば、薬で骨を強くすることができます。市町村の検診や整形外科で受けられます。一度も受けたことがない方は、ぜひ。
まとめ
- 運動なら、片足立ちだけ(左右1分×1日3回)
- 飲んでいる薬を、見直す(自己判断でやめない)
- 足元が見えるメガネにする
- 危ないのは、平らな床
- 転んでも、折れない体に
お気づきでしょうか。5つのうち、運動はひとつだけでした。
転倒予防というと、どうしても運動の話になります。もちろん運動は土台です。片足立ちは、ぜひ続けてください。でも、運動だけでは防げません。薬、目、家、骨。この4つを整えて、はじめて効いてきます。
転ぶ原因は、足だけではないのです。
※ご注意
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。
お薬は、絶対にご自分の判断で中止・減量しないでください。血圧の薬や睡眠薬を急にやめると危険です。必ず主治医・薬剤師にご相談ください。
片足立ちは、必ず机や壁に手が届く場所で行ってください。
手すりの設置や段差の解消は、介護保険の住宅改修が使えることがあります。お住まいの地域包括支援センターへご相談ください。
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