「最近、歩くのが遅くなった気がする」「片脚立ちをするとふらつく」——そんな小さな変化を、年齢のせいだと片づけていませんか。歩けなくなるのは“ある日突然”ではありません。日々の習慣が少しずつ積み重なった結果として、ある日「あれ、歩けない」に変わるだけです。この記事では、将来歩けなくなる人に共通する5つの特徴と、今日から変えられる3つの習慣を、理学療法士がわかりやすく解説します。
そもそも、人はなぜ歩けなくなるのか
厚生労働省の「2022年 国民生活基礎調査」によると、介護が必要になった主な原因は、認知症が16.6%でもっとも多く、次いで脳血管疾患(脳卒中)が16.1%、骨折・転倒が13.9%、高齢による衰弱が13.2%、関節疾患が10.2%と続きます。
注目したいのは3位の「骨折・転倒」と5位の「関節疾患」です。この2つは、脳や血管の病気とちがって、日々の筋力・バランス・体の使い方に強く左右されます。しかも要支援(比較的軽い段階)にかぎって見ると、原因の1位は関節疾患で19.3%。つまり「歩けなくなる」への入口は、病気よりも先に、足元の衰えや痛みからやってくることが多いのです。
裏を返せば、ここは自分で手を打てる領域だということ。これから紹介する5つの特徴は、そのサインです。
特徴① 1日7時間以上、座りっぱなし
オーストラリア・シドニー大学などの調査では、日本人が平日に座っている時間は1日420分=7時間で、世界20か国のなかでもっとも長いという結果が報告されています。スポーツ庁も、この「座りすぎ」を健康リスクとして注意喚起しています。
長く座り続けると、脚の大きな筋肉が使われないまま血流と代謝が落ちていきます。糖や脂質の処理能力が下がるだけでなく、太ももやお尻の筋肉、そして股関節まわりが固まり、立ち上がりや歩き出しがぎこちなくなります。「1時間の運動をしているから大丈夫」とも言い切れません。まとまった運動をしていても、残りの時間ずっと座っていれば、そのリスクは打ち消しきれないと考えられています。
問題は「座った合計時間」よりも「座り続けた連続時間」です。ここを断ち切ることが、いちばん現実的な対策になります。
特徴② 歩くのが、前より遅くなった
歩く速さは、筋力・心肺機能・バランス・神経の働きを一度に映し出す指標で、「第6のバイタルサイン」と呼ばれることもあります。目安になるのは秒速1.0m。横断歩道は青信号のあいだに渡りきれるよう、この速さを基準に設計されていると言われます。
- 秒速1.0m以上:自立した生活を続けやすい目安
- 秒速0.8m未満:転倒・要介護のリスクが高まりやすい
- 青信号のうちに渡りきれない:歩行速度が落ちているサイン
自宅でも簡単に測れます。平らな場所で5mを、いつものペースで歩いてみてください。かかった秒数で5を割れば、おおよその秒速がわかります(例:5mを6秒→約0.83m/秒)。人に追い抜かれることが増えた、信号を渡りきるのに小走りになる——そんな実感も、立派なセルフチェックです。
特徴③ 片脚立ちが10秒できない
2022年に『British Journal of Sports Medicine』に発表された研究では、51〜75歳の1,702人を対象に「10秒間の片脚立ち」ができるかどうかを調べ、その後およそ7年間追跡しました。結果、テストができなかった人は、できた人にくらべて死亡リスクが約1.8倍(84%高い)という関連が示されています。年齢・性別・持病の影響を調整したうえでの数字です。
この研究では、対象者の約20%が10秒立てませんでした。決して珍しいことではないのです。片脚立ちは、脚の筋力・足裏の感覚・体幹の安定・バランスをとる神経の働きが、すべて揃ってはじめて成立する動作。だからこそ、たった10秒で全身の状態が見えてしまいます。
やり方は簡単です。視線はまっすぐ、両手は体の横に下ろし、片脚を軽く浮かせて10秒。必ず、机や壁などすぐつかまれる場所のそばで行ってください。ふらついてもすぐ支えられる環境が大前提です。
特徴④ たんぱく質が足りていない
筋肉は、材料が入ってこなければ維持できません。加齢とともに、同じ量のたんぱく質をとっても筋肉がつくられにくくなる(同化抵抗性)ことがわかっており、若い頃と同じ食べ方では足りなくなっていきます。
65歳以上でサルコペニア(加齢による筋肉量・筋力の低下)を予防するには、体重1kgあたり1日1.0g以上のたんぱく質が目安とされています。体重60kgの方なら1日60g以上。国際的なガイドラインでは、より積極的に1.0〜1.2g、持病や低栄養がある場合には1.2〜1.5gまで推奨されることもあります。
ポイントは「合計量」だけでなく「配分」です。夕食にまとめてとるより、朝・昼・晩それぞれに20g前後を分けてとるほうが、筋肉づくりには効率的だと考えられています。とくに朝食は抜けやすく、たんぱく質が不足しがちな一食。卵1個、納豆1パック、ヨーグルト、牛乳、豆腐半丁——どれか一品を足すだけでも変わります。
※腎臓の病気がある方は、たんぱく質の量を医師の指示に従って調整する必要があります。自己判断で増やさないでください。
特徴⑤ ひざ・腰の痛みを我慢している
「歳だから痛いのは仕方ない」——この我慢が、いちばん静かに歩行機能を奪います。痛みがあると人は無意識にかばい、動く量が減ります。動かなければ筋肉が落ち、関節を支える力が弱まり、さらに痛くなる。この痛み→動かない→弱る→もっと痛いという悪循環に入ってしまうと、抜け出すのに時間がかかります。
前述のとおり、要支援になった原因の1位は関節疾患です。痛みは「休みなさい」というサインであると同時に、「体の使い方を見直しなさい」というサインでもあります。市販の湿布でごまかし続ける前に、一度きちんと評価してもらうこと。それが結果的に、歩ける期間をいちばん長く伸ばします。
- 階段の下りで、ひざの内側が痛む
- 朝いちばんの動き出しに、腰がこわばる
- 痛みを避けるために、外出の回数が減った
- 痛む側をかばって歩くクセがついている
ひとつでも当てはまるなら、我慢ではなく相談のタイミングです。
今日から始める、3つの習慣
5つの特徴に共通していたのは、「気づけば変えられる」ということでした。難しいことは必要ありません。次の3つだけ、今日から始めてみてください。
①30分ルール — 座り続けを断ち切る
30分に1回、立ち上がって数十秒動く。それだけです。テレビのCM、電話が鳴ったとき、お湯が沸くまでの間——きっかけは何でもかまいません。立ってその場で足踏みを10回、かかとを上げ下げ10回。座り続けた時間を細切れにすることが目的なので、運動としての強さは要りません。タイマーやスマートウォッチのリマインダーを使うと、驚くほど続きます。
②1日1回の片脚立ち — バランスの貯金
机や壁のそばで、左右それぞれ10〜30秒。歯みがきのあいだ、お湯を沸かしているあいだなど、毎日必ずやる行動にくっつけると習慣になります。慣れてきたら、支えの手を「指1本だけ添える」→「離す」と段階的に減らしていきましょう。ふらつきが強い日は無理をせず、支えたままで大丈夫です。回数より、毎日続くことのほうがずっと大切です。
③毎食のたんぱく質 — 材料を切らさない
朝・昼・晩それぞれに、手のひら1枚分の主菜(肉・魚・卵・大豆製品・乳製品)を。まずは、いちばん抜けやすい朝食に一品足すところから始めてください。卵、納豆、ヨーグルト、チーズ、豆乳——調理のいらないものでかまいません。運動をした日は、その後1〜2時間以内にたんぱく質をとると、筋肉づくりにより効率よく使われます。
歩けなくなるサイン セルフチェック
- 1日の大半を座って過ごしている(連続1時間以上座ることが多い)
- 以前より歩くのが遅くなった/人に追い抜かれることが増えた
- 支えなしの片脚立ちが、10秒もたない
- 朝食にたんぱく質のおかずがない日が多い
- ひざや腰の痛みを、市販薬や湿布でごまかしている
2つ以上当てはまった方は、今日紹介した3つの習慣を始めどきです。逆に言えば、当てはまった項目こそが、いちばん伸びしろのある場所でもあります。
まとめ
歩けなくなるのは、ある日突然ではありません。座りすぎ、歩く速さの低下、片脚立ち10秒、たんぱく質不足、そして痛みの我慢——この5つは、どれも今日から手を打てるものばかりです。30分ルール、1日1回の片脚立ち、毎食のたんぱく質。この3つを積み重ねて、「一生歩ける体」を一緒に育てていきましょう。
動画では、5つの特徴を図解つきでさらに詳しく解説しています。チャンネル「ふくろう先生」では、毎週水曜18時に「一生歩ける体」のつくり方を配信中です。よろしければチャンネル登録もお願いします。
参考資料
- 厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査」介護が必要になった主な原因
- スポーツ庁「日本人の座位時間は世界最長『7』時間!座りすぎが健康リスクを高める」
- Araujo CG, et al. Successful 10-second one-legged stance performance predicts survival in middle-aged and older individuals. British Journal of Sports Medicine. 2022;56(17):975-980.
- Studenski S, et al. Gait speed and survival in older adults. JAMA. 2011;305(1):50-58.
- サルコペニア診療ガイドライン2017年版/厚生労働省「日本人の食事摂取基準」
※この記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたもので、特定の疾患の診断・治療に代わるものではありません。運動は無理のない範囲で、必ず支えのある場所で行ってください。痛み・しびれ・持病のある方は、事前に主治医へご相談ください。


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